A-CROTとSA-CROTの実施手順

学習・教育の省察的な循環と学習の文脈

A-CROTとSA-CROTは,図のような省察的な(reflective)循環の中で使用することを推奨する.つまり,

0:臨床実践による経験に基づいて,

1:評定とコメントによる内省(狭義の自己省察)を行い,

2:評価結果の得点化による整理をし,

3:分析によって学習者の強みと課題を特定して,

4:目標設定による計画を行い,

そして,その目標設定について,0:臨床実践による経験の中で活かしていく.

図 学習・教育の省察的な循環


このような臨床経験を基盤にした省察的な循環の中で学習・教育評価を使用することによって,学習者のクリニカルリーズニングに対する経験学習が促進されると考える.

また,この学習の循環は,学習者と学習環境(教育者含む)と学習課題の相互作用の影響を受けた学習の文脈のなかで行われると考える.そのため,この学習の文脈を考慮する必要がある.


学習者-学習環境-学習課題の相互作用



STEP 1:採点とコメント(内省)

<A-CROT・SA-CROT共通>

評価者は,評価日と評価者を記載し(A-CROTの場合は,自己評価なのか他者評価なのかを丸で囲む),教示文をよく読んでここでいうクリニカルリーズニングの状態について評価すること,評定段階とその備考,回答例について理解する.

A-CROTとSA-CROTのSTEP1 の教示文


続いて,項目(A-CROTは40項目,SA-CROTは14項目)を読み,自身の実践を振り返って,いまの自分の状態が5つの評定段階(わからない〜分析できる)のうち,最も近いと思うものひとつを丸で囲む(回答例を参照).そして,評定した理由やそれに関連する具体的場面,評定時の気づきについて,コメント欄に記載する.

A-CROTのSTEP1 の項目と評定段階,コメント欄の一部



STEP 2:評定結果の得点化(整理)

<A-CROT>

A-CROTは,40項目のうち,項目1-10は科学的根拠を活かす思考プロセス,項目11-20は対象者のナラティブを活かす思考プロセス,項目21-30は専門職の倫理を活かす思考プロセス,項目31-40は実践の文脈を活かす思考プロセスに対応している.各思考プロセスの得点(範囲:10-50点),総得点(範囲:40-200点)を得点化する.

A-CROTのSTEP 2-4 

<SA-CROT>

SA-CROTの各思考プロセスの得点,総得点を得点化する.SA-CROTの14項目は,項目1-4では科学的根拠を活かす思考プロセス(範囲:4-20点),項目5-8では対象者のナラティブを活かす思考プロセス(範囲:4-20点),項目9-11では専門職の倫理を活かす思考プロセス(範囲:3-15点),項目12-14では実践の文脈を活かす思考プロセス(範囲:3-15点)に対応している.

SA-CROTのSTEP 2-4 


SA-CROTの総得点(範囲:14-70点)は,OTS群32.2±6.3点(n = 135),OTR群37.3±8.7点(n =138 )である.経験年数別では以下のようである.


OTSとOTRのSA-CROTスコア

経験年数

平均

SD

OTS

32.2

6.3

OTR 1年目

35.6

8.7

OTR 2年目

35.8

7.9

OTR 3年目

37.5

8.9

OTR 4年目

41.1

8.1

備考:本表は丸山ら 2022のデータを元に作成.


SA-CROTの総得点(素点)の換算表

素点

logit

SE

素点

logit

SE

素点

logit

SE

素点

logit

SE

19

-6.65

0.58

30

-3.33

0.55

41

-0.08

0.59

52

3.07

0.47

20

-6.33

0.55

31

-3.03

0.54

42

0.28

0.60

53

3.29

0.47

21

-6.03

0.54

32

-2.75

0.53

43

0.63

0.59

54

3.51

0.47

22

-5.74

0.54

33

-2.46

0.53

44

0.97

0.57

55

3.73

0.47

23

-5.45

0.54

34

-2.19

0.52

45

1.29

0.55

56

3.95

0.47

24

-5.17

0.54

35

-1.91

0.52

46

1.59

0.53

57

4.18

0.47

25

-4.88

0.55

36

-1.64

0.53

47

1.86

0.52

58

4.40

0.47

26

-4.57

0.55

37

-1.35

0.54

48

2.12

0.50

59

4.62

0.47

27

-4.27

0.56

38

-1.06

0.55

49

2.37

0.49

60

4.85

0.48

28

-3.95

0.56

39

-0.75

0.57

50

2.61

0.49

61

5.09

0.49

29

-3.64

0.56

40

-0.42

0.58

51

2.84

0.48




備考:本換算表は臨床実習経験のあるOTSから臨床経験3年程度までのOTR専用のものである.なお,本表は丸山ら 2022のデータを元に作成.


SA-CROTの総得点(範囲:14-70点)は,上の表を利用することで,間隔尺度であるlogit値(および標準誤差)に変換できる.なお,SA-CROTの前後の各スコアをlogit値に変換した後,前後のlogit値の差を各スコアのlogit値の誤差の和と比較することにより,SA-CROT変化の有無(誤差範囲であるかどうか)を確認できる.以下に換算例を示す.


換算の例:

下の表に示すように,初期の総得点が31点であった場合,表5の換算表を使用してlogitに換算すると-3.03 logits,標準誤差(以下,SE)は0.54 logitsとなる.そして,介入後の最終の総得点が40点であれば,logitに換算すると-0.42 logits,SEは0.58 logitsとなる.

そして,(最終のlogits)−(初期のlogits)が(最終のSE)+(初期のSE)を上回っていれば,対象者は有意にCRの自己評価が向上したと判定することができる.


つまり,以下の式のように考えることができる.

CR自己評価が向上 = A(logitsの変化) > B(SEの合計)

    A:(最終のlogits)−(初期のlogits) > B:(最終のSE)+(初期のSE)


 下の表のOTS-Aであれば,(最終のlogits)−(初期のlogits)は(-0.42)−(-3.03)で2.61となり,(最終のSE)+(初期のSE)は(0.58)+(0.54)で1.12となる.介入前後(初期と最終と)のlogit値の差が介入前後(初期と最終と)のSEの和を上回っているため,OTS-Aは有意にCRの自己評価が向上したと考えられる.

換算の例:OTS-Aの成果指標の変化より

SA-CROT 総得点と下位得点,Logit

初期(1週目)

最終(8週目)

総得点 (14-70点)

  A: 科学的根拠を活かす思考プロセス (4-20点)

  B: 対象者のナラティブを活かす思考プロセス (4-20点)

  C: 専門職の倫理を活かす思考プロセス (3-15点)

  D: 実践の文脈を活かす思考プロセス (3-15点)

変換後のLogit (SE)*

31

9

9

7

6

-3.03 (0.54)

40

10

12

10

8

-0.42 (0.58)

9

1

3

3

2

2.61

   

 A(logitsの変化):(-0.42)−(-3.03)=2.61

   B(SEの合計)  :(0.58)+(0.54)  =1.12

A>Bが成り立つ =OTS-AのCR自己評価が向上した 



STEP 3:強みと課題の特定(分析)
強みと課題の特定は,学習者の強みと課題を特定し,STEP 4の目標設定につなげていくための分析プロセスである.本マニュアルでは,STEP 2で得られた得点に対して,以下の視点による分析を提案する.

<A-CROTとSA-CROT共通>
視点:学習者の期待される行動に着目する
臨床実習では学生が臨床教育者の着目点や思考プロセスを模倣し,養成校で学習した知識を使用して実際の事例を解釈し,説明できるようになることが求められる(日本作業療法士協会 2018).これは評定段階の「着目できる」から「説明できる/解釈できる」への移行に相当すると考える.
評定段階の「応用できる」や「分析できる」の段階の設定により,卒後教育への対応や学生が次の段階の見通しをもった学習(Hattie 2018)に利用可能であると考える.表に,評定段階と期待される行動の例を示す.

評定段階と期待される行動の例

評定段階

説明

期待される行動(や知識)

わからない

  • 該当する視点をもって臨床場面に取り組むことができていない,該当するような臨床場面を思い出すことができない,または,経験していない場合である.

  • 臨床指導者からの多くの指導や助言があっても説明や解釈は難しい.

  • 臨床実習の準備性を養っている段階である.

  • 養成校で(模擬事例や文献などで)典型例について学んでいる.

  • 臨床実習の準備性として,作業療法評価(面接や観察評価,検査・測定)や計画(目標設定,介入)に関する基本的知識を有する.

着目できる/思い出せる

  • 自身では十分に説明や解釈することは難しいが,着目することや該当場面を思い出すことができる水準である.

  • 臨床指導者からの多くの指導や助言があれば,説明や解釈ができる.

  • 臨床実習を通して学んでいる段階である.

  • 臨床現場で実際の対象者を通して典型例に対する臨床教育者の考えを学び,事実と結びつけて記載している.

  • 臨床教育者の説明を聞いて,養成校で学んだ知識と照らし合わせている.

説明できる/解釈できる

  • 「典型例」であれば説明/解釈できる水準である.ここでいう説明できる水準の「典型例」とは,学生や新人作業療法士が中心的に関わる(・担当する)対象者を指す.

  • 臨床指導者からの少しの指導や助言があれば,説明や解釈ができる.

  • 新人作業療法士として臨床実践をはじめた段階である.

  • 臨床現場で実際の対象者(典型例)に対して,評価や計画を実行し,その理由について説明や記載をしている.

  • 自らの考えについて,過去に学んだ知識と照らし合わせて説明している.

応用できる

  • 様々な例/状況でも説明/解釈できる水準である.この水準になると,「典型例」であれば,臨床指導者からの指導や助言がなくても,説明や解釈ができる.

  • 助言や指導を得ながら作業療法士として日々の臨床実践を行っている段階である.

  • 臨床現場で様々な対象者に対して,標準的な評価や計画を実行し,その理由について説明や記載をしている.

  • 自らの考えについて,文献や他者の意見と照らし合わせて説明している.

分析できる

  • 比較分析して説明/解釈できる水準である.ここでいう分析できる水準の「比較分析」とは,過去の様々な例や状況の経験の共通点や相違点を比較することを指す.

  • 一人前の作業療法士として日々の臨床実践を行っている段階である.

  • 臨床現場で様々な対象者に対して,それぞれに適切な方法で評価や計画を実行し,その理由について説明や記載をしている.

  • 文献や他者の意見を柔軟に取り入れながら,自らの考えについて説明している.

備考:先行研究(Schell 2018,Maruyama et al 2021,丸山ら 2022,日本作業療法士協会 2018,Richard et al 2001)に基づいて作成.


<A-CROT>

視点:自己評価と他者評価のギャップに着目する

A-CROTでは,自己評価と他者評価で利用できる特性を活かし,学習者と教育者との評定のギャップがある項目や,その項目に対する互いの評定理由(コメント)について着目する.先行研究では,一般に学生の自己評価と教育者の評価との間には弱〜中程度の相関があると言われている(Brown et al, 2014).また,学生が自己評価の実施方法を訓練されていれば,学生は自分自身を正確に評価できると言われている(Thawabieh 2017).一方で,成績の悪いものは,より不正確な自己評価があることが指摘されている(Srikumaran et al 2019).

つまり,自己評価と他者評価のギャップが大きいほど,不適切な自己評価をしている可能性がある.そのため,そのギャップの背景にある評定理由やその具体的場面を共有することが重要である.また,そのギャップに対し,是正的なフィードバックをすることは,CRの改善に有用である(Beer and Mårtensson 2015).


視点:各思考プロセスの傾向に着目する

A-CROTでは,各思考プロセスで10項目ずつの質問項目が設定されている.これら質問項目は,4つの思考プロセスのなかでどの思考プロセスで特に強みがあるのか,課題があるのか,といった学習者の傾向を検討する上で役立つだろう.

特に各思考プロセスの質問項目は,評定段階のどの段階により多く評定しているのか,といった疑問は思考プロセスごとの学習につながる.しかし,A-CROTの40項目は内容妥当性のみが検討されている.各因子毎による合計得点は,素点としては扱うことができるが,因子分析等による各因子間の関係については未検討である(SA-CROTでは,確認的因子分析を実施している).そのため,A-CROTの各思考プロセスの得点(範囲:10-50点)を直接比較することは避けるべきである.



STEP 4:目標設定(計画)

<A-CROTとSA-CROT共通> 

STEP 4はSTEP 3で分析した強みと課題を踏まえ,学習目標の設定をする段階である.ここでは,変えたい項目・変える必要がある項目を特定し,その期待する段階(わからない〜分析できる)を明らかにし,それら目標の達成期間を設定する.

目標設定の際には,次のことに留意する必要がある.目標は達成可能な段階に設定することが望ましい(Ashford & Stokes 2017).そのため,具体的には期待する段階は,現状の段階から大幅にかけ離れておらず,現状より一つ上の段階とするほうが良いだろう.達成時期については,OTSであれば,短期的な臨床実習の前後や,長期的な臨床実習の初期・中間・最終といった3〜4週間の期間で設定することが妥当であると考える.また,著者の考えでは変化の程度は,OTRに比べOTSのほうが大きいことが予想される.そのため,OTRの場合の目標設定の期間は,少なくともOTSよりも時間を設けたほうが望ましいと考え,4週間以上の期間を推奨する.


<A-CROT>

A-CROTでは,学習者と教育者での使用を前提としており,話し合いによって目標とする項目を3〜5つ決めることを推奨する.

<SA-CROT>

SA-CROTでは,自己評価として自ら変えたい項目を3つ設定する.





A-CROTとSA-CROTの
入手(使用申請)は以下より


文献

Ashford S, Stokes LT: Goal attainment scaling in adult neurorehabilitation. In Siegert RJ, Levack WMM (Eds.), Rehabilitation goal setting: Theory, practice and evidence. CRC Press, 2017, pp.123-141.

de Beer M, Mårtensson L. Feedback on students' clinical reasoning skills during fieldwork education. Aust Occup Ther J. 2015;62(4):255-264. doi:10.1111/1440-1630.12208

Hattie J:(山森光陽・監訳) 教育の効果ーメタ分析による学力に影響を与える要因の効果の可視化ー.図書文化社,2018.

Maruyama S, Sasada S, Jimbo Y, Bontje P: A Concept Analysis of Clinical Reasoning in Occupational Therapy. As J Occup Ther (17)1: 17-25, 2021.

Richard EM, Paul RP, Merlin W: The Cognitive Process Dimension. In Anderson LW, Krathwohl DR (eds), A taxonomy for Learning, teaching, and assessing: A revision of Bloom's taxonomy of educational objectives, Addison Wesley Longman, New York, 2001, pp.63-92.

Schell BAB: Professional reasoning in practice. In Schell BAB, Gillen G (eds), Willard and Spackman's Occupational Therapy 13th, Wolters Kluwer, Philadelphia, 2019, pp.482-497.

Srikumaran D, Tian J, Ramulu P, Boland MV, Woreta F, et al: Ability of Ophthalmology Residents to Self-Assess Their Performance Through Established Milestones. Journal of Surgical Education, 76 (4), pp. 1076-1087. 2019. 

Thawabieh Ahmad M: A Comparison between Students' Self-Assessment and Teachers' Assessment. Journal of Curriculum and Teaching, v6 n1 p14-20 2017.Unsworth C, Baker A: A systematic review of professional reasoning literature in occupational therapy. Br J Occup Ther 79(1): 5-16, 2016.

一般社団法人日本作業療法士協会:作業療法臨床実習指針(2018).https://www.jaot.or.jp/files/page/wp-content/uploads/2013/12/shishin-tebiki2018-2.pdf(参照 2020-01-08).

丸山祥, 村仲隼一郎, 宮本礼子, ボンジェペイター: 日本の作業療法臨床実習における教育評価の開発と使用に関する課題: スコーピングレビュー. 作業療法教育研究 20(2): 21-29, 2021.

丸山祥, 笹田哲, 神保洋平, 宮本礼子, ボンジェペイター: 作業療法のクリニカルリーズニング評価尺度の開発: 内容妥当性の検討. 作業療法 40(6): 784-792, 2021.

丸山祥,宮本礼子, ボンジェペイター: 新人作業療法士のクリニカルリーズニング学習と教育の経験の理解:作業療法のクリニカルリーズニング評価尺度の有用性. 作業療法 41(2) 188-196, 2022.

丸山祥,宮本礼子, ボンジェペイター: 作業療法のクリニカルリーズニング自己評価尺度(SA-CROT)の妥当性と信頼性の検討. 作業療法 41(2) 197-205, 2022.




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