スケーリングの開発背景

スケーリング(評定段階)の理論的背景

 Bloom’s Taxonomyは教育目標(educational objectives)の行動的局面(behavioral aspects)を分類し,明確に叙述するための枠組みです1,2).ここでいう教育目標とは,「意図された学習者の学習成果(intended student learning outcomes)」です1).Bloom’s Taxonomyは,認知領域(cognitive domain),情意領域(affective domain),精神運動領域(psychomotor domain)の3領域から構成され,さらに下位カテゴリーに分けられます.

 認知領域では,知識(knowledge),理解(comprehension),応用(application),分析(analysis),総合(synthesis),評価(evaluation)の段階に整理されています.これらは単純から複雑という順序に配列されています.これは「複雑性の原理(the principal of complexity)」に基づいており,カテゴリー間の関係は「累積的・階層的構造(cumulative hierarchical structure)」として捉えられています.つまり,低次のカテゴリーはより高次のカテゴリーにとっての必要条件(十分条件ではない)となっています.今回,クリニカルリーズニングの評価作成にあたり,オリジナル版を一部変更した改訂版のカテゴリーを参照しました(補足:Bloom’s Taxonomyの認知領域は複数の研究者によって改訂されているが,ここではアンダーソンらによる改訂版を扱う).

 改訂版タキソノミーではその学習観について,認知心理学から「構成主義(constructivism)」と「領域固有性(domain specificity)」を取り入れています.構成主義の立場は,物事を学ぶことを情報の量的蓄積とはみずに,経験を意味づけ知識を構成する過程とみています.また,領域固有性の立場は,学習や発達の文脈依存性を重視し,領域を超えた一般的な心的操作や知的操作ではなく,領域固有の知識構造や知的操作の探究に強調点を置いています1,2).オリジナル版は1950-60年代に発表されたもので,改訂版はオリジナル版を引き継ぎつつ1990年代の時代的要請を受けて提案されています.

 改訂版では,認知領域のカテゴリーを知識(knowledge),理解(understand),応用(apply),分析(analyze),評価(evaluate),創造(create)としています.クリニカルリーズニングはBloom’s Taxonomy認知領域と捉えることができ,また,学習理論としても構成主義や領域固有性という点でクリニカルリーズニングの学習観に適合しやすいと考えられました.よって,改訂版の認知領域のカテゴリーを参考にクリニカルリーズニング評価のスケーリングを開発しました.


  • Anderson, L. W., & Krathwohl, D. R. (Eds.) (2001). A taxonomy for Learning, teaching, and assessing: A revision of Bloom’s taxonomy of educational objectives. New York: Addison Wesley Longman.
  • 石井英真: 「改訂版タキソノミー」によるブルーム・タキソノミーの再構築−知識と認知過程の二次元構成の検討を中心に−. 教育方法学研究 28(0), 47-58, 2002. 

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